2017年1月20日金曜日

中目黒の「雉御立場」

■国立公文書館の…
データベースにある「目黒筋御場絵圖」。
http://www.digital.archives.go.jp/das/image-l/M2008032520510889502

■荏原の…
近世を知るには欠かせない地図であり、三田用水を調べている関係から、その経路沿いについては、これまで数えきれないほど参照してきた。

■他の文献などと…
照合してゆくと、三田用水の経路とその周辺については、あらかた判明したものの、ただ一つ、正体の知れないランドマークがあった。


上下反転

 それは、幕末近くには幕府の砲薬製造所が設けられ、維新後は、海軍火薬製造所、陸軍火薬製造所、海軍技術研究所、連合国軍エビスキャンプ、防衛庁研究所を経て、現在は防衛省の防衛技術研究所となっている地域の、北端の三田用水右岸にある「雉御立場山」なる場所である(上図赤矢印)。

■「立場」といえば…
まして頭に「御」が付くとなると、駒場狩場つまりは今の東大の駒場キャンパスや先端/生産技術研究所のある旧上目黒村の北端にあった将軍家の御狩場の例によれば、将軍やそれに準ずる超高官が、狩場を見渡すために場内に設けた人工の高台を指していることになる。


後記「鷹狩と綱差」掲載の、嘉永2年の鹿狩りの折に造成された立場


■と、いうことは…
この場所が、砲薬製造所になる前は、駒場狩場と同様の将軍家のキジの狩場だった可能性が高いことになるのだが、なかなかウラがとれずにいた。

■そんな折…
ネットオークションで
目黒区教育委員会「綱差役川井家文書」同/S57/03/15・刊
を入手した。

 川井家つまり「権兵衛が種蒔きゃからすがほじくる 三度に一度は追わずばなるまい」との唄のモデルと言われる、駒場狩場近くに役宅のあった綱差権兵衛の家の文書にかかわる本は、実はもう1冊
川井権兵衛・著/川井康男・編 「鷹狩と綱差」川井権兵衛?/1998年・刊
があって、そちらかと思って落札したのだが、結果的には嬉しい誤算となった。



上記「鷹狩と綱差」掲載の「駒場野古地図」

■入手した本の…
内容を、まだ渉猟したわけではないのだが、ざっと目を通しただけでも以下のような記述が見つかった。

元文四未年四月 の条

一、大御所様*中目黒筋 御立場江雉子 御成爲被遊候 尤御物数九ツ
  御こぶし外ニ二ツ・新堀ニ而黒鴨壱ツ・揚鷹都合十二、其節被下もの御掛り御鳥見方栗津・高月・近藤・助勤高月政六・綱差権兵衛御鳥見方白金参枚宛、権兵衛金一両・同二分藤右衛門江被下置候、以上
」p.125

と、あり
(元文4年=1739年 将軍=吉宗)

*吉宗時代に大御所つまり前将軍がいることはありえず、ここにいう「大御所」は吉宗を指しているようにも見えるが、吉宗が隠居して長男家重に将軍職を譲り大御所となったのは、延享2(1745)年なので時期が合わない。
 リアルタイムのいわば業務日誌の記録で、現役の将軍を「大御所様」と書くことはありえず、一方、元文4年は未歳であるので、時期の誤記とも考えにくい。
 本書への掲載時の解読に誤りがないのなら、吉宗隠居後に、「覚書」を清書あるいは再編集したときに、原文では「上様」あるいは「公方様」とあるのを書き換えたのかもしれない。



また
「覚
寛延四未年四月十五日」 の条

「中目黒御立場江大屋遠江守様御見分ニ御出被成候、尤早川七十郎様御出被成候而御見分相済」p133

(寛延4年=1751年 将軍=家重**

**持病の影響で文武を疎んじたと言われる家重だが、
實暦2年2月21日
同6年3月11日
同13年正月22日
同14年正月29日
に目黒に狩りに訪れ、落語の「目黒の秋刀魚」のモデルになったといわれている茶屋坂上の爺が茶屋(別名:一軒茶屋。上図青矢印あたり)に立ち寄っているとされている(村上三朗・編「目黒町史」東京朝報社/T13/09/01・刊 pp.53・54)。

 もっとも、最後の2回は家重の死後であり、目黒町史のリストが「天保12年10月4日」の家斉の御成で終わっているところからみて、これは、このころ当の爺が茶屋経営者が作成した「一軒茶屋由緒」に依拠したことにまず間違いはないと思われる。
 しかし、この「…由緒」は、経営難に陥った茶屋の経営者が、裏山の松の木を幕府に買いあげてもらおうと、将軍家とのゆかりを強調した文書のようなので(幕府宛ての請願書の類なので「大嘘」を書けば首が飛びかねないとはいえ)、信憑性は川井家文書よりはるかに劣る。ウラ取りなしにそのまま真に受けることのできる史料ではない。



「…由緒」の附図と思われる「茶屋場分間絵図」


■資料に…
細かい問題はあるとはいえ、「中目黒」あるいは「中目黒筋」の「御立場」なるものが、御場絵圖に示された、田道の「雉 御立場」であることは、ほぼ間違いないと思われる。